ある時、リモートで指導させていただいている生徒さんから
「いざ喋ろうと思うと、どこから声を出すのかわからなくなります」
というお悩みを聞きました。
どこから?というその質問自体、私には新鮮でしたが、
その方はオンラインで講師をやっており、録画やセミナーで話していると、
声がかすれてきて不調を感じるのだそうです。
それにそもそも声コンプレックスがあって、
いざ喋ろうとすると、力が入ってしまって出しにくい。
声と緊張
声には、とてもメンタルな要素がありますから、
緊張や不安があると、いつものように出ないということが多々あります。
私もその昔、大学の演劇研究会に入った頃、
先輩の舞台を観た時の感想をみんなの前で言わなければならない時に、
よく「声が震えてるよ」と指摘されました。
先輩の批判にならないように、しかも少し気の利いた発言をしようという野心のために、
とても緊張していたんですね(笑)。
また、ある授賞式で、衣装部門で受賞された方が壇上でスピーチをした際、
「若い頃、音響や照明のオペレーターに挑戦したこともあったけど、
1〜2度本番でミスを犯してしまい、それ以降舞台の緊張感に耐えられず、
自分には本番づきのスタッフは無理だと知って、
衣装スタッフの道を選んだくらいのあがり症なのに、
こんな場所で喋らなくてはいけなくなって…」と言いながら、
ひっきりなしに咳き込んで声がかすれていました。
その方の衣装さんとしての業績を考えると、
その前のオペレーターとしてのミスは起こるべくして起こった、
運命的な「緊張によるミス」だったと思えて、むしろ微笑ましかったのですが、
確かに人前でしゃべっている時に、声が詰まったりすると苦しいですよね。
腹式発声
我々役者は、どんなに緊張しても、声だけは出るように普段から訓練するものです。
これはもちろん「腹式発声」。
お腹から声を出すことを覚えると、緊張していても声は出るんです。
なぜか。
普段緊張や不安を感じるのはどこですか?
喉が詰まるような感覚があったり、胸が圧迫されるような気がしたり、
胃が痛くなる人もいるかもしれませんが、
お腹や下腹部、腸のあたりではありませんよね。
だから息をお腹まで落とすようにすると(腹式呼吸)、
その感情を回避し、和らげることができるんです。
さらに「腹を決める」「腹が座る」という言葉があるように、
お腹に意識が宿っている時は、人間はあがらないのです。
武士がいざという時、袴や帯をぐいっと下げて、
刀に手をかけるという所作を、
皆さんも時代劇で一度は目にしたことがあるかもしれませんが、
実際、あの仕草でお腹(=丹田)を再認識していたのかもしれません。
丹田の大事さ
そうなんです。つまり、丹田が大事なんです。
そしてタイトルの「どこから声を出すのか」の答えは、
「丹田から」なんです。
丹田とつながって息を吐いたり吸ったり、
丹田から声が出せるようになると、深くて聞き取りやすい声になります。
しかも、文字通り「腹の座った声」になるので、
自信が感じられ、
発している本人も、自分のその声を聞いて、
より自分のことを頼もしく感じられるというわけです。
さらに、もっと大事なのは、
これが「魂の声」なんです。
魂とつながる声
物理的、医学的にも、お腹で呼吸をするということは、
お腹に向かって張り巡らされた自律神経の働きも促していて、
健康にも良く、血行促進の作用もあります。
加えて、私が思うには、お腹の奥深くにある魂とつながって、
自分本来の音色を出すのだと思うのです。
胸から上の呼吸でしゃべっている時は、
自分を偽ったり、飾ったり、言い訳することも簡単ですが、
お腹から出す声ではなかなか嘘はつきにくいものです。
(腹式発声でオレオレ詐欺をしている人がいたら、相当の悪党かもしれません)
演技は、自分から遠い役どころや感情を表現しなくてはなりませんから、
ぶつぶつと小さい声で覚えたり表現できた気になっても、
腹式発声で言おうとした途端に、言えなくなったりするものです。
また覚えにくかったりするものなんです。
だから、稽古が必要なんですね。
舞台は手間暇がかかります。本当に大変です。
でも、
いざやってみると、こんなに楽しいことはないのです!!
(これが言いたいこと!☺️)
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